そのちいさい手

電車に乗って友達の住む街へ。先ほどの件もあり移動中は斉藤和義を聴いていた。駅についてから待ち合わせの時間までまだ少しあったので、駅にあるDPEの店でカバンに入れたままになっていたフィルムの現像を頼んでおく。帰り際には写真が出来上がっている算段。
時間通りに友達が駅まで迎えにきてくれる。友達が押してきたベビーカーの中をのぞくと赤ん坊が眠っていた。はじめて見る彼女は思っていた以上に小さい人で、駅の構内は結構騒がしいし、ベビーカーのタイヤは思ったよりもクッション性が低そうで結構激しく揺れていそうなのだけれど、そういうことは気にならないのか、ひとりでスヤスヤ寝ている。
友達の部屋に移動すると赤ん坊が起きたので改めて挨拶。少しだけ抱っこさせてもらう。彼女は無言でこちらをじっと見る。ずっと見る。そしてときどきよだれを垂らす。
部屋の真ん中のソファの上に落ち着いた彼女を挟んで友達とおしゃべりなどして午後を過ごす。その友達とゆっくり話をするのも久しぶりだったので、ここ1年くらいのお互いの不在を埋めていくような話からはじまって、お互い今考えている事などもいろいろ話せたのはよかった。妊娠中のいろいろな話も聞けたし、最終的にはかなり面白い時間が過ごせた。話をしながらも僕はときどき赤ん坊にちょっかいを出していて、そのたびに彼女は不思議そうにこちらを見つめながら、手足をバタバタさせたり、たまにブジュブジュとよだれを出したりする。
おしゃべりのあいだも母親である友達は絶えず赤ん坊の相手をしていて、抱っこやらオムツ替えやらおっぱいやら、とにかく忙しそう。見ていたら赤ん坊は、なんとなく2時間から2時間半くらいのサイクルでいろいろなこと(食事、睡眠、排泄など)が回っている感じがして、忙しい人だと思った。「赤ん坊を見ていて気づくと日が暮れていることがある」という友達の言葉もうなずける。僕はそれらを他人事のように、というか確かに他人事なのだけど、ぼんやり眺めながら(おっぱいの時は襖の向こう側)お菓子を食べたり、忙しそうな友達に向かって勝手に話しかけたりしていた。
いろいろ話していたら、いつの間にか外が暗くなっていてお腹も減ってきた。友達にも赤ん坊にも相手をしてもらってばかりで悪いので簡単なチャーハンみたいなものを作ることにして、僕が作って友達とそれを食べた。僕が食べ終ったあと、友達がまだそれを食べているあいだ、もう一度赤ん坊を抱っこさせてもらう。こんどはけっこう長いこと抱いていた。この赤ん坊はこんな知らないオッサンの抱っこでも、まったく動じることなくおとなしくしている。なかなかの人物とみた。途中で部屋のテレビをつけると、やはりテレビの画面は赤ん坊にも興味深いようで、僕の腕の中からどうにかテレビを見ようと首の据わっていない頭をぐぃーんとひねったりするのがこちらとしては怖かった。
赤ん坊もまた眠くなってきたようで、おいとますることにする。友達と友達に抱かれた赤ん坊に挨拶をして外にでたらすっかり夜になっていた。こちらとしては楽しい時間を過ごすことが出来たし、とてもいい日曜日になった。友達親子に感謝だなと思いつつ、駅についてみるとDPEの店は既にシャッターを降ろしていた。友達のところにはまたそのうち遊びに行きたいけど、それまで写真は置いておいてもらえるものだろうか。