打ち合わせ

朝、居間のコタツで目が覚める。足のほうを見ると自分と同じようにコタツで力尽きた妻が倒れるようにそこで寝ている。起床。風呂。朝食にバターで焼いたホットケーキ。
昼前に外出。正午に下北沢の駅前で打ち合わせの待ち合わせ。時間通りに友達と合流し、まずは腹ごしらえからということでチクテカフェでマフィンとサラダとコーヒーのセット。ずいぶん前にここでサラダを食べた時に生まれてはじめてインゲンをおいしいと思った。席に座った瞬間にそのことをけっこう鮮明に思い出した。今日も相変わらずインゲンはおいしかったけれど、ドレッシングが少々かかり過ぎていて味が強すぎてしまっていて、それを少しだけ残念に思いながらマフィンを食べたら、これがサクサクかつもちもちで非常においしい。
店を出て駅前に向かって歩いている途中の道ばたの区の掲示板に活版印刷展のポスターが貼ってある。そういえばこれに行きたいと思っていたことを今思い出したのだということを話してみると、友達も興味ありということで、善は急げということで三軒茶屋に移動することにして、茶沢通りからバスに乗る。
グーテンベルグが発明したという活版印刷については知識としてはなんとなくわかっていたものの、実物の印刷機を見るのは生まれてはじめてで、その使い方とか活字の寿命とか、実はなんにもわかっていなかったことがわかった。印刷機というくらいだから活版印刷は機械で刷るものだけれど、実際に印刷機にかけるまでの工程のほとんどは職人による手作業で、自分が活版印刷の刷り物に、刷られた文字や余白の意味や美しさ以上の価値を感じるとしたら、それはきっとその質感やデザイン性もさることながら大部分はこうした職人の見えない手による仕事に対する想像力から生み出されるものなのだろうということもなんとなくわかった。
駅前のデニーズに移動してようやく打ち合わせ。ノートをとるのは友達に任せてこちらは思いついたことを無責任に喋り、黙り、コーヒーを飲む。何杯目かのコーヒーを飲み干した頃、ようやくこの話のおぼろげな輪郭を描くためのペンのインクをつめる道具の値段くらいのことがわかるようになってきた。ひとまずの前進。
夕方、電車で移動。表参道のABCで資料になるような本を探してみるものの収穫は特になし。渋谷まで歩きながらなにかを食べようという話になって結局また下北沢まで電車で戻る。
夜、たしか先週も行った沖縄そば屋に入って豆腐チャンプルー定食(そば大盛り)を食べる。うまいうまいと食べていたら沖縄そばのどんぶりの麺にかくれた下のほうから大きなラフテーのかたまりが出てきたので驚いた。今まで「こんにちは」と「ごちそうさま」と「島とうがらしください」以外の会話をほとんどしたことはないのだけれど、あの人は僕がこうして店に行くたびにいつも無言でおまけをつけてくれる。カッコいい、見習いたい、と思いながら今日もおまけを有難くいただく。
以前はずいぶん通った駅前の喫茶店に入って食後のお茶。今日の話の整理をしながらお互いの宿題などを確認しているうちに、話が思わぬ方向に進んでいって、気がついたら大見得を切ってしまっている自分がいた。駅で解散。電車に乗って帰宅。
以前原宿のどこかでとある中年のおじさん(失礼)が「話すことはインプットだ」と言われていたのを聞いて、「なるほど!」と思わず声をあげるかわりに大きなあくびをしたことがあったけれど、帰り道の電車でウトウトしながらそのことを思い出した。話すことはやはり考えることであって、話しながら自分の中でぼんやりしていたものが自分が話す言葉にかたちを与えられながら少しずつまとまっていくのがよくわかる。この半日のトークで、ひとりで考えていたここ一ヶ月間以上に物事は進んだ。そういう気がする。