鰻屋にて

鰻重には食後に果物がつくが、
鰻丼にはつかない。
一緒にいた人が食べていたのはしら焼き定食で、
しら焼き定食には果物がつく。
私の食べていたのは鰻丼なので、
本来果物はつかないはずなのに、
店のおねえさんは私にも果物を給仕してきた。
「私には果物はつきません」と言った。
おねえさんは一瞬考えた後、
しゃがれた声で「えぃい、いぃい」と
投げやりな感じで言って、
果物を置いていった。
くれたのである。
仮に誤って出てきたのが、
果物ではなく1万円札だったらとしても、
「私には一万円札はつきません」と言うだろう。
1千万円の札束だったとしたら、
そのときは少し考えると思う。
一千万円の札束を誤って私に渡したそのおねえさんに、
「私には一千万円の札束はつきません」と私は言うだろうか。