灯台にて

灯台


伊豆半島の南端、下田の爪木崎。
バス停前に四軒ある食堂を兼ねた売店のうち、
一軒は奥に引っ込んでいるのか店の人の姿が見えない。
あとの二軒は開いているのかいないのかすらわからない。
残る一軒はおかみさんが店先に出ている。
おかみさんは近所の人と世間話をしながら、
目の前を観光客が通れば声をかけ、
客が店に寄らないとわかると、
また隣の人との世間話の続きをはじめる。
灯台へ続く一本道は、両側を低木に囲まれていて、
海の音や潮風以外は空しか見えない。
高台の突端にある灯台の向こう側は崖で、
その向こうには海しかない。
海しかないのだが、その海はずっと遠く
かすんで見えないところまでつづいている。
灯台の外壁は一番上まで白いタイルで出来ていて、
その上には東西南北を示す飾りが取り付けられている。
灯台は普段から無人らしく、
どこか遠くから遠隔操作されているらしい。
灯台からの帰り道、はじめて人とすれ違った。
ずっと遠くに海岸を歩いていく人の姿が見える。
相変わらず海から吹いてくる風が強い。

あの世の入り口のような、不思議なところ。