彼と服

彼ほどの年齢になれば、大抵の人がそうであるように、服に対する趣味もだいたい固まってくる。それは彼も例外ではなくて、彼の服装を見る限り、それぞれの服にディティールの違いはあれど、何かしらの共通性があるようで、全体として最近の彼は、いつもだいたい似たような格好をしているような印象がある。大きな体に坊主頭、ほつれたジーンズに夏場はTシャツ、冬場はパーカーや軍モノのようなジャケット。たいていの荷物は腰から下げた袋に入っているか、キーホルダーにぶら下げられている。ストレスのないものを少しだらりとした風情で着るのが彼の好み、といったところか。最近知りあったばかりの人から、ヒップホップをよく聴いてそうだと、自分の格好を見て形容されたことに違和感を感じていたようなので、是非にと「襟付き」を提案してみたが、あまりお気に召さない様子だった。彼の服装に対する意識は、試行錯誤の時期を過ぎ、既にある程度固定化しつつある。2年ほど前のある日、駅前で待ち合わせた時に彼が着ていた真っ白なロングカーディガンが未だに忘れられない。あれから何度も彼に会う機会はあったが、結局その時以来、ただの一度も彼がその白くて長いカーディガンを着ている姿は見られなかった。彼曰く「堂本剛的ななんとか…」とか言っていたその白い長いカーディガン。今思えば、もしかしたらあれが、彼の服装に対する試行錯誤の歴史の最後を飾る、記念碑的な貴重な一場面だったのかもしれない。もう着ないのかな。面白かったのに…。