四月馬鹿

朝から仕事場に行って働くふりをして、午後から仕事場関係の宴会に出席して酒を飲むふりをする。ふりなのに疲れるし、ふりなのに酔っぱらう。夜、解散。
電車に乗って移動、繁華街の漫画喫茶に入って少し寝て待ち、合流。その後また移動。
土曜日の、しかも夜中の市役所は、当たり前に真っ暗で噴水らしきものもすっかりただの地面と化している。真っ暗な正面入口横にあった案内図を頼りに建物の横手にまわって、そこから階段を降りたところに夜間受付の窓口を見つける。
持ってきた婚姻届を窓口に出すと、窓口の奥にいた横分けメガネは無言で机の上のペン立てから鉛筆をとり、こちらの出した書類を上からチェックしはじめた。窓口の奥にはもうひとり、制服を着た警備員が座っていて、彼はそこから一段あがった奥の畳の部屋にあるテレビを見ていたのだけれど、こちらに気づくと遠慮をしてか、奥の部屋とを仕切る引き戸をガラガラと閉めて、少しだけ開けたその引き戸の細い隙間から奥の部屋のテレビを見はじめたのだけれど、僕の立っている位置からは芸能人がカーリングをやっているテレビのバラエティ番組が、その引き戸の隙間の一直線上によく見えた。
しばらくして、紺色のセーターの中に赤と青と黄色の線が格子状に並んだチェックのシャツを着ていた横分けメガネがチェックの終った届けをこちらに戻してきて、いくつかの部分に記入漏れと訂正の必要があることを教えてくれる。加筆・訂正のあと、押印をしてまた提出。横分けメガネは自分が鉛筆で書き込んだ訂正の指示を丁寧に消しゴムで消してからもう一度念入りに書類を見直し、最後に簡単な説明とともに受付証明証のようなものを出してくれた。
思いの外あっけなく簡単に手続きは終了。「お願いしま〜す」と言って窓口を去る。
帰り道、市役所前の植え込みに咲く沈丁花から風に乗っていい匂いが漂ってくる。遠くでやっているという花見には行けなかったけれど、道路沿いの沈丁花や雪柳の白い花を見ていたらそれで十分満足できた。