ひとりごと

帰り道、今日も本を読みながら帰る。その本のある部分を読んでいてここは面白いなあと思いながら、今時分が感じたこの面白さは同じ本のはじめの方で作者が紹介していたベケットの『モロイ』のある場面について作者が書いていた面白さと同じじゃないのか、ということを思いつき、読み進めるのをいったんやめて読んだはずのページをさかのぼって探しはじめる。
思い出したのは『モロイ』の中で主人公が海岸で拾った16個の石を順番にしゃぶる場面を紹介していた部分で、その部分を探しながらページをめくっていると、そういえばこの本のほかのところでもこれと似たようなことを作者が書いていたような気がしてきて、それがどの辺りだったかもっと詳しく思い出そうとするものの、なかなか思い出せない。
そうやってページをめくりながらなにかを思い出しながら、耳ではずっとさっきからイヤホンで聞いている音楽の歌詞の意味を追いかけていて、ページをめくりながらなにかを思い出しながらその歌詞に対して「確かに!」と同意したりして、あるいはチラッと視界の隅っこの方の電車の扉の脇に紙袋が倒れているのが見えて、同じくページをめくりながらなにかを思い出しながら「忘れ物だろうか?」と気にしてみたりする。
というところでふと自分を振り返って、そうして「いろいろなことが同時だ!」と気づいて思わず驚き、改めて考えてみればそれは至極当たり前のことなのだけれど、もっと改めて考えてみればそれはやはりすごいことに思えてきて、ひとりで静かに興奮する。
そんなことを考えていたら電車の外に見える風景がいつもとなんだか違う気がしてきて、開いた電車の扉の外をよく見てみたら、そこは各駅停車の止まる駅で、自分としては急行に乗ったつもりでいたのでまた驚いた。
さっき、電車に乗る際に見た駅の電光掲示板には、最初に各駅停車、その後に急行が来るということが表示されているのを僕は確かに見ていて、その時「一本待つのか」ということを思ったことも憶えているのに、なぜか自分は最初に来た各駅停車の方に乗り込んでしまっていたようで、なぜそうなってしまったのか、確かに自分のことなのにそこのところがまったく判らない。