息をしてる

朝、仕事場に向かう電車に乗りながら珍しく音楽でも聴いてみたい気分になったので、このあいだ友達が教えてくれたAnn Sallyの「のびろのびろだいすきな木」を聴きはじめる。
その音楽をBGMにしながら目の前の座席に座っている人たちー上を向いて居眠りをしているメガネのおじさんと、まっすぐ前を見つめているお姉さんと、あごを前に突き出して新聞に見入っているお兄さんと、携帯電話をいじっているおじさんと、あと2人がどんな人だったかはもう忘れてしまったーが電車の大きな窓の向こう側に見える夏の朝の高い位置からの明るい日光に照らされた住宅街の家々の屋根と、その上にずっとひろがる夏の青い空を背景に並んでいるのを眺めていたら、その知らないひとたちのことがなぜかしら愛らしくというか、輝かしくというか、見るからに中年のオッサンも含めてひとりひとりがキラッキラして見えてきたのでちょっと自分でも驚く。
赤の他人に対してなぜだか小さな子供たちを見るような、親的な立場からの愛情みたいなものを感じてしまったのは明らかにその歌声の影響なのだけれど、数日前からの妻の不在もこのことに無関係ではないと思っていて、それがどういう理由なのかはまったく説明は出来ないけれども、きっとそうなのだと思う。