24時間花見

青と白


00:10 お花見開始
深夜の緑道は思ったよりも人が多く、時間も時間であるため、どの宴会もおおよそ盛り上がっている。楽しげに酔った人たちの間を歩き、ひとまず空いているベンチに腰を落ち着ける。ひとり花見スタート。
00:30 セッティング
部屋でいつも使っているコタツ用のテーブルを運び、ベンチの前に設置。レジャーシートも机のまわりに敷く。同時にカセットコンロなども部屋から運び、机の上にセッティング。緑道に部屋を持ち込む。
00:50 場所とられ
ひとりでベンチと部屋を往復している間に、自分がつくったベンチまわりに男女6人組(男3女3)が座っている。「座っていいですか」と聞かれたので「うん」と答えて、自分は彼らの脇で黙って花見をする。
01:30 迷い
友だちと電話をして気を紛らわす。「来る?」と聞くと「行かない」とのこと。隣の6人組は猥談でますます盛り上がる。
02:00 ノミネート間違い有り氏 現る
夜通し騒ぐのかと思われたまわりの宴会も、1時を過ぎた頃からポツポツと解散していく。隣の6人組はこれから誰の部屋へ行くか話しているが、なかなかまとまらない。そんななか、見覚えのあるシルエットが向こうから歩いてくる。咳払いをひとつ。手からぶら下げた袋にはビールとおつまみ。顔を見てすごくほっとした。
02:30 深夜のツインタワー
結局まわりの宴会はすべてはけた。明日の場所とりのブルーシートや段ボールに囲まれて、ふたりでおしゃべり。すこし離れたところからギターの音と歌声が聞こえてくる。カセットコンロは壊れていて「ただボンベに入っているガスを外に出すだけの装置」と化していることがわかる。
03:00 桜
下から見上げると、一本の桜の木でさえすでに、さらに小さな単位(ユニット)の集合体であることがよくわかる。そして花見とは何なのか、僕らはそこで何を見ているのか、改めて考える。「花を見ながら、さらにその花を見ている自分を見ている」のではないかという指摘に、ストンと納得する。
04:00 冷え込みピーク
朝は寒い。朝は眠い。抜け殻感想のオンパレード。知らぬ間にネガティブな発言が増えていることに気づき「夜桜はキレイ」と声に出して言う。言霊の存在を信じる。
05:00 美
寒さに震えながらふと空を見ると、既に夜明けがはじまっている。空の色はダークレーから次第にブルーグレーに変化していく。刻々と変化していく空の色に改めて驚きながら、早朝の濃紺色の空を背景にした、桜の花の色の美しさを生まれて初めて知る。偶然の出会い。驚くべき美しさ。
06:00 朝がくる
いつの間にか夜が明け、緑道は朝の風景。散歩する老人や、朝帰りの若者が目の前を通り過ぎていく。おなかが空いている。コンビニエンスストアに買いだし。
06:30 撤去
お湯を入れたカップラーメンを手に持って緑道に戻ると、さっきまであった机が無い。机どころか何もない。周りを見回すと、すこし先のビニールシートの上に机があり、その近くの柵に下げられているビニール袋に、敷いていたレジャーシートが丸めて入れられており、座ると暖かかったスチロールボードが折られて入れられている。ただし机の上に置いてあったお酒やおつまみはどこにも無い。頂き物の大魔王(芋)は、まだ一杯しか飲んでいないし、それを注いでいたグラスも無い。きれいさっぱり消え失せる。絶句。ひとまず机を元の位置に戻し、落ち着いてカップラーメンを食べる。冷えきった体に温かい食べ物はおいしい。食べながら気づいたが、ベンチの後ろに置いていた自分のグローブも、そこにはもうなかった。
07:00 ひとり(本来の姿)
ともに夜を過ごしてくれたノミネート氏が帰る。氏のおかげでなんとか長い夜を乗り切ることができたし、これほどゆっくりとお話をできたのははじめてかもしれない。感謝。お幸せに。そしてまたひとりになる。
07:30 自主撤去
これからやってくる日中のことを考え、フットワークを制限してしまう机は、ここで部屋に戻すことにする。机やその他の荷物を部屋に運び、本を2冊だけ持って再び緑道へ。
08:00 睡魔を受け入れる
本を読みはじめると数秒で眠りに落ちる。そしてまた起きる。何セットか繰り返し、気がつくと本格的に寝ていた。場所とりに来た夫婦に「場所とりの方ですか?」と聞かれ、「はい。あ、いや、違います。」と答える。場所を保有することも、もはやリスクにしか思えない。

09:00 カットのみ
夫婦にベンチを譲り、自分は他のベンチに移動して再び本格的に居眠りをする。朝の陽射しがアホほど気持ち良く、ぬくぬく。30分くらい寝る。その後、気分を変えようと近所の床屋に行って髪を切ってもらう。

10:00 花見を忘れた緑道
さっぱりしたところで再び緑道へ。しかしよく考えると、これはもはや「花見」ではなく「暮らし」。

11:00 記録の為帰宅
部屋に一時帰宅。ひとまず途中経過をまとめる作業を行う。作業をしながら別のお花見のお誘いを頂き、すでに気持ちは向こう側。このあと12:00から歯医者に予約あり。

12:00 やっと会えた
歯医者に向かう頃には、緑道は花見客でいっぱい。自転車に乗っていると不意に声をかけられた。声の方向を見るとバイクにまたがった吉田さん。探していただいたようで申し訳なく思ったが、とにかくお会い出来てよかった。ちなみに深夜01:30頃、6人組の隣にひとりでいる僕を吉田さんは確認していたようだった。75%の確立で僕と思われたものの、残り25%の迷いとあたりの暗さから、あきらめて帰られたとのことで、二度申し訳なく思った。しかも僕がこれからそこを離れて歯医者に向かうこともご存知で「いってらっしゃい」とまで言っていただいて、三度申し訳なく思った。いつか、皿いっぱいのウインナーで、この不義理のお返しをしたい。感謝。それからその時、生シーナ・アンド・ロケッツを目撃。

14:00 保険外
歯医者の診療終了。次回の診療で大金を支払うことになる。絶好の花見日和の緑道は、ますます人が溢れていて、心の中の距離がどんどん遠くなっていく。

15:00 スーパー
近所のスーパーのお総菜コーナーは、花見にあわせて特別仕様で、メニューも多い。こぼれる程にお総菜がならべられた商品棚は見ているだけで楽しいものの、こちらはひとりであるため、結局買うのは普通のお弁当をひとつと菓子パンをひとつ。部屋に戻って食べる。午後の陽射しが部屋に差し込んできて、気持ちがいい。

18:00 空白
弁当を食べて、すこし横になったところから記憶が無い。いつの間にか寝ている。あたりはまだ明るいものの、そろそろ夕暮れが近い。一度緑道に出てみたが、昼から始まった宴会は、ここら辺でひとまず盛り上がりのピークを迎えたようで、片づけはじめている人もちらほら。逆に今から花見を始めようとしている人も、またちらほら。

19:30 放棄
近所の緑道での花見をもはや完全に投げ出し、目黒川沿いの大規模お花見へ向かうため駅へ。

20:30 目黒川
大きな川に沿った遊歩道沿いの桜並木は、緑道よりも狭い間隔で木が植えられており、その木の背丈も短いため、花との距離も近い。ボリューム感のある桜並木。見たことのある顔を探して花見客の間を歩く。

21:00 これぞ本場
すっかり暗くなった並木の中で、無事知り合いの顔を発見、合流。総勢40〜50人の花見会は、存じ上げない方のほうが多いものの、そういうお花見然とした雰囲気の中に身を置けることが既に嬉しく、ひさしぶりにお会いする方もたくさんいて、また嬉しかった。
22:00 ダメじゃん
結局今日も、あまり遠慮せず話せる人とばかり話していた。それはそれでとても楽しい時間であり、よく笑ったけれど、この機会にお伝えしたかったいくつかの大事なことを、ご本人に伝えそびれたりした。お伝えするどころか、挨拶すら満足にできていなかったりもする。

23:30 帰路
まだまだ賑やかな会場を失礼して駅に向かう。

00:30 帰宅
帰り際に一応緑道の桜をひやかして帰宅。思いつきのみではじめた24時間花見は、結局こういうかたちで終了。