落書き精いっぱいいっぱい

午後外出して四ツ谷へ。友達が店長を務める店が今月末で閉店になるとのことで、最後の催しに顔を出す。小さな小物に囲まれた店内は限りなく女子的。またしてもいつものひょっこり状態になっていることに気づく。店に入ってから急に吹き出してきた汗がしばらく止まらなくなった。
最後ということで、店内の壁一面に大きなキャンバスが貼られていて「誰でも自由に絵の具で絵を描いていい」というお絵書き空間になっていた。「なんか描いて」「なんかやって」「なんか言って」そういう唐突な求めはどうにも苦手。なんとなくためらっているところで、背中を押されて恐る恐る筆をとる。
キャンバスの一番高いところに「小さな小さな凧」を描いて、次にそこからキャンバスの一番低いところまで「ひたすら続く長い凧糸」を描いてみる。地味。遠くの凧だから色もすごく薄い色を選んで描いたので、遠くから見たら見えないような代物。でもなぜか満足。しかし地味。
あまりにもあっけなく満足感を得られてしまったものの、なんとなくもっと描くみたいな雰囲気でだったので、もうすこしだけ筆を持つ。何を描いたらいいものか、考えながら筆を動かしていたら「核をもった楕円とそこからのびる細いにょろにょろ」が描けた。なんだか精子のようなものになってしまったそれを見ながら、自分の無意識の筆はこびの失策を後悔しているところに、となりで絵を描いていた方が気をつかって、僕のかいた「精子らしきもの」を見ながら「細か〜い」とか「なにを描いてるんですか?」とか親切に話しかけてきてくれたのだけれど、僕はとっさの機転も利かせられず「精子ですかね」とまんま答えてしまう。おそらく作家さんであろう親切なその方は、そんな中学生レベルの僕の言動に対しても「もっとたくさん描いたらいいんじゃないですか?」と適切なアドバイスをくれた。
「なるほど」と感心しつつ、もっと小さいのをいくつか描き足していたところで、なんだかいろいろなことに対して申し訳ない気持ちになってきて、それ以上描くのをやめた。まわりを見ると、すぐ近くにもすごく上手でかわいらしいお絵書きがたくさんあって、なおさら申し訳なくなった。やはりこういうものはそういう方にまかせた方がいい。
その後、友達がブレンドしたというオリジナルのコーヒーをゆずってもらい、レジ越しに「二桁のかけ算 一九一九」を面白いからと言って一方的に押し付けて、挨拶もそこそこに店を出る。外に出ると緊張がほぐれて、吹いてくる風が涼しかった。