世界を包み込む

日中、仕事場のトイレでチョコ味のタバコをふかしながら「ついでに便でも」と思いズボンを下ろしたところ、なんとなくパンツがおかしい。自分のものなのに見慣れないというか、気にしなければ気づかないような微細なズレ、なんとなく感じるの微妙な違和感がある。とはいえあるべきものはあるべきところにきちんと収まっているし、ズレてもいない。ではこの違和感はなんなのだろうと思ってよくよく見たら、パンツが裏返しになっていた。後ろ前ではなく裏返しなので、半日以上それに気がつかずに過ごしてしまったらしい。
赤瀬川原平の「宇宙の缶詰」が真っ先に頭に浮んだ。本来僕をやさしく包んでくれるべき布地の部分は今は外側になっていて、今僕は本来パンツの外側である布地に包まれている。ということは僕の体は今日この時までパンツの外側にあって、午前中はパンツを穿いていなかったと言えなくもない。知らぬ間にモロ出しスタイルで仕事をしていた自分は滑稽を通り越して貴重だとさえ思った。
でも考えてみれば、パンツの内側の布地が今日に限って外側に面していたということは、僕の体がパンツの外側にあったのと同じように、僕の体以外のものはすべて(ズボンも同僚も仕事場も、もっというとビルも東京もつまりは世界全体)が僕のパンツの中に収まっていたと言えないこともない。その解釈からすれば、見られたくない大事なものがパンツの外側にさらされていたとしても、それを見るすべてのものがパンツの内側にあったのだから、誰もそれを見ることは出来なかった。結局「つまりOK」という答えが出てきたので安心しながら、「僕のパンツの中に収まってしまう世界」って「たいしたもんではないな」と思ったりした。世界には申し訳ない話だけれど。