横浜の日曜日

北仲モス

午前中、居間から庭を眺めてあれこれ構想、または妄想。その妄想中、トカゲが虫を捕獲する瞬間を目撃する。3メートルほど離れたところでの出来事なので詳しいことはよく判らないが、枝葉の山の下から出て来たトカゲが地面にとまっていた羽虫を庭の真ん中あたりでぱっと捕まえた。見事なものだと感心しながらトカゲが虫を食べているのを見ていると、そのうち別のトカゲが山から出て来て、最初のトカゲが食べている虫を横取りしようと食らいつく。一瞬の小競り合いのあと、どちらかは判らないが勝負に負けたらしい片方のトカゲは、背中を向けて山の中へ戻っていった。ここにある小さな大自然
昼過ぎ、ふたりで外出。電車を乗り継いで横浜、みなとみらいへ。途中道に迷いつつ、東京芸術大学 新港校舎の「OPEN STUDIO vol.2」を見学に行く。
真新しい建物は立地、外観、内装のいずれも、かつて自分が通っていた「学校」という言葉から浮かんでくる「教室感」からずいぶん遠いところにあり、教室というより「現場」や「工場(こうば)」という感じ。昔見に行った飛騨高山の匠塾の工房を思い出す。自分たちの頭や手を動かしながら新しい知恵や技術を生み出していくのであれば、こういうほうが教室として健全なのだろうなどと思ったりする。
《入射角と反射角》《太陽と地球》
帰り際、出入り口のところに藤幡正樹氏がいて、そこにいる学生たちに声をかけているのを見かける。ちょうど横のスペースにあるモニターからは学生たちが行った氏へのインタビューの映像が流れており、椅子に座って話し続ける姿が映るモニターの手前で、メガネとヒゲと体がくっついた同じ顔が画面と無関係に動いているのが、失礼だけれど奇妙な感じで面白かった。はじめて見る氏は以外に背が小さく、しかしなにか特別なオーラというか雰囲気があり、できれば喧嘩はしたくない感じ。学生たちを打ち上げに誘っていた。
夕方、歩いて馬車道へ。興味のあった北仲WHITEが通り道にあるので寄ってみると、ちょうどイベントの最中のようでにたいへん賑わっている。このあいだ友達に勧められたbook pick orchestraの「book room[encounter.]」を冷やかしたあと、せっかくなので建物の中をウロウロ見学してまわる。しばらくして、とある部屋の中から誰かがこちらに声をかけてくるのでそちらを見ると、知った顔の友達がこちらに向かって歩いてくるので驚いた。その友達に「部屋に入れ、お金を落としていけ」と言われて部屋に入ると、今年の初めに一緒に山に登ったその友達の友達もいたのでまた驚いた。挨拶に次ぐ挨拶と適当なあいづち、半笑い。このあとライブを観るのだというその友達らとは部屋の前でお別れし、こちらはまたしばらく建物の中をウロウロ。いつのまにか日が暮れる。
夜、馬車道から電車に乗って中華街へ。9年ぶりくらいで右も左もわからぬ中華街を歩き回り、何軒目かに入った店で、妻が探していたという人参烏龍茶を購入。満足気味で目的の中華料理店に入り夕食。隣のテーブルの家族連れとそのテーブルについた年配の店員は以前からの顔見知りのようなのだけれど、中国系らしい店員の説明にはかなりの確率で英単語が混じるのを面白く盗み聞く。中国の黒酢についての「スメルが、ストロング」というフレーズがお気に入り。
もともと中華料理のコースというのは量が多いものだけれど、その上海老を食べられない自分の代わりにエビチリを一皿まるまる食べた妻は、デザートが出る頃には「もう中華はうんざりだ」と言い苦い顔をする。快楽と苦痛は紙一重であることを痛感しながら自分も苦しい腹をさする。もちろん料理はどれもおいしいのだけれど。
苦しいほどに満腹かつ満足。明日の夕食に肉まんとあんまんを買って岐路に着く。