章夫の日曜日(アキオサンデー)

昼前、外出。電車を乗り継いで横浜、桜木町へ。途中道に迷いつつ、神奈川県立青少年センターへ。演劇資料室の前で少しだけ立ち話をして妻から頼まれた手紙を届ける。おつかいを無事済ませたあとは再び電車に乗って神奈川県民ホールへ向かう。県民ホールにははじめて行ったのだけれど、その会場がとてもいいところで一目で気に入ってしまった。いいなあと思いつつ階段の上から客席を見回し、すみっこの方に先に到着しているという曖昧フレンドの顔を見つけ、その横に座る。
第5回かながわ戯曲賞最優秀作品ドラマリーディング公演 『無頼キッチン BRAY KITCHEN』神奈川県民ホールギャラリー
中盤少し寝たものの面白く観る。終演後のポストトークも面白く聞く。そのトークを聞いていてリーディング公演というものの意味や目的のようなものの一端がようやくわかった気がして、ガレキの前にこっちだったと強く思う。
芝居の中では、鬱病で自宅療養中の父親がいるキッチンに、不登校気味の子供の様子を見に来た担任教師が現れて会話が生まれる場面が特に面白かった。舞台上での会話から読み取る限り、その空気の読めない担任教師は、そこでのとぼけた立ち振る舞いとは裏腹に教室ではずいぶん高圧的な態度で児童たちと接しているらしく、それ故「暴力」とか「虐待」とかそういう単語にいちいち過剰な反応をしてしまうのだけれど、それが自分に対する言葉ではないことがわかるたびにまたいちいち過剰に安心する。どう見ても頭が良さそうには見えないその担任教師は、不登校になっている自分のクラスの子供のことよりも、お昼休みの時間を使っての家庭訪問のために楽しみにしていた今日の給食が食べられなかったことのほうが今は重要らしく、しきりに「お昼ご飯」のことを話題にしようとするし、今そうすることがいいと判断すればさっき言ったことと矛盾するようなことを悪びれもせず平然と言い、しまいには「じゃあ僕はどうしたらいいでしょうか?」などと、自分での判断を停止してに人に助けを求めたりする。思うに担任教師の頭の中には「今をどう振る舞うか」というか「切り抜けるか」ということしかなくて、会話の流れとか文脈とかそういうことをまるで無視して、徹底的に「今、その場」を切り抜けるための言動を繰り返す。その姿がもうとても面倒臭くいし、鬱陶しいのだけれど、そういう駄目っぷりはきらいではない、というかむしろ好き。
それにしても気になるのは、その担任教師の「ぼ、ぼ、ぼうりょくぅ〜?」とか「ぎゃ、ぎゃ、ぎゃくたい〜?」という間抜けで鬱陶しい振る舞い方と、教室では非常に厳しいために「子供たちに怖がられている」という設定が、どう考えてみてもひとりの人物として重なり合わないということで、もっというと、そういう僕が感じた矛盾というか違和感のようなものを、実際に演じている役者の方や演出家の方はどのように捉えて、ひとりの人物としての像を結んでいたのだろうか、ということでもある。しばらくはこのことをオカズにご飯が食べられそう。おいしいかどうかは別として。
観劇後、曖昧フレンドと山下町界隈をウロウロ。ふらりと入った横浜税関で麻薬と密輸についてよくわからないけれど勉強させてもらう。水色ジャケットの密輸講義は、唐突に始まって唐突に終わる。そういうひたむきなおせっかいはきらいではない、というかむしろ好き。
夕方、電車で渋谷へ移動し青山ブックセンター本店へ。
東京大学「80年代地下文化論」講義』刊行記念 宮沢章夫×川勝正幸トークショー&サイン会
トークショウ終盤の歯止めが利かなくなった脱線合戦がどうしようもなく面白い。特に宮沢さんはきっとけっこう疲れていたんだろうと思う。ちょうど余計な邪念が打ち払われた無我の境地みたいな感じで、次々とどうでもいい豆知識を披露しつづけてくれた。そういうしつこさというかおかしな純粋さはきらいではない、というかむしろ好き。
渋谷まで歩いて友達と別れて帰路につく。成り行きで追っかけのようになってしまった一日。そういう意図しないところで言い訳が必要になるような状況はきらいではない、というかむしろ好き。