ファミレスという書斎

午後、バスに乗ってとなりの駅前まで行って散髪。今日も散髪中はずっと無言でウトウトしている。ひげを剃ってくれる人が今日はなぜか女の人で妙に緊張してしまい、顔にカミソリがあてられている状態で口中にたまった唾液を飲み込むタイミングを逸する。少し苦しい。
散髪後、床屋の隣のパン屋で好物のラスクを買う。二袋。帰りは電車で一駅乗って、そこから歩いて近所のデニーズへテーブルを借りに行く。
夕方のファミリーレストランはお客もまばらで席も選び放題。担々麺を食べてから、ひさしぶりに書写をする。他人の書いた文章をノートに書き写している間、写している文章のことに集中しているかといえばそうではなくて、隣の席から聞こえてくる話をなんとなく聞きながら、さっき向こうからドリンクのおかわりを聞いてきたくせに注文したアイスコーヒーをなかなか持ってきてくれない店員が今何をしているのかを遠くに見たりしていて、もし仮にそのことを知らない別の店員が空になった自分のグラスをみつけてドリンクのおかわりを聞いてきたらどうしようかということを考えたりしながら、今写している文章の書き方が面白いことに気づいてみたり、あるいは昨日の帰り道に聞いていた音楽のことを思い出してそのときに考えた感想のようなものを誰かに伝えるとしたらどういうふうに話すのだろうかと考えてみたりと、結構いろいろなことをやっている。
でも、そうやっていろいろなことに浮気をしながら、全体としては「考える」ことに集中できていて、おそらくそれは「文字を書くことの物理的な限界」というか「考えることと書くことの間に生じる時差」というか、そういうことの影響を少なからず受けた結果である気がしていて、キーボードをパシャパシャやりながらではこうはならないというか、それはそれでまた違ったふうなまとまり方になるのだろうなと思ったりする。
懸案のドリンクについては、他の店員がおかわりを勧めてきた場合、もう一度同じ注文をするのはなんとなく癪だし、今は隣のテーブルに水を運んでいる最初の店員がミスを犯していることを自覚しないままことが済んでしまう可能性があるので不本意でもある。かといって手を挙げたり顔を上げたりして店員を呼ぶのもなんとなく違う気がして、自分としてはやはり最初の店員に出来る限りすみやかにこのことに気がついてほしいのだけれど、思い通りにならない可能性も十分あるので、他の店員が注文をとりにきた場合には「さっき他の人にお願いしました」というふうに返すことにした。こうすればあまり強い意味での嫌みや意地悪にならずに他の店員にも誰かがミスを犯していることが伝わるし、こう答えれば基本的に僕にはそれ以上なにも喋る必要がなくなるはずで、それでもまだなにか言わなければならないような状況になってしまったらその時は明確に文句を言えばいいかな、などと考えながらの作業が続く。結局、少ししてから最初の店員が申し訳なさそうにアイスコーヒーを持ってきたので出来る限り自然でさりげない感じで「問題ないです」の顔をして作業を続ける。
夜、だんだんとテーブルが家族連れでうまってくる。小さな子供が嬉しそうに席に着いたりするのを見て、またいろいろなことを思い出す。帰宅。
深夜、帰宅した妻とメロンを食べる。朝から晩までずっと雨。深夜になって少し弱まる。