逃げ寝

夜中、帰宅したあとなんだか何もしたくない気分だったのでその通り本当になにもしないで居間にいたら、あとから帰宅した妻がなにもいわず夕食を作ってくれた。食事をはじめてしばらくした頃、妻の携帯電話に着信があってそのまま片方の声しか聞こえない会話が隣ではじまったのだけれど、それがなかなか終わらない。そのうち妻が会話を続けながら皿に残った食べかけのスパゲッティの具として入っていた人参でもって、電話のコードをくるくると指にからめるように、あるいはメモ帳に幾何学模様を描きつづけるように、皿の底にたまった赤いトマトソースをせき止めたり解放したりして遊びはじめたのをとなりで見ていたら、だんだん嫌な気分になってきたのだけれど、自分がもう食べ終わってしまった今日の夕飯はそもそもその妻がつくってくれたものなので、こういう場合は腹を立ててもいいものなのか、そうではないのか、どうなのか、どうしていいのか考えていたら、結局なんだかわからなくなってしまってギューとなっているうちに「とにかく逃げる」という消極的な回避策を思いつき、自分の使った食器と台所の流しに残っていた洗い物をさーっとやっつけ、二階に上がってそのまま就寝。
その判断が間違っていたんじゃないかということに気がついたのは翌朝になってから。