7月12日 午前7時43分

生後8時間の赤(名前はまだ無い)

深夜0時15分、居間の床で座布団をクッション代わりにして横になっていた妻が突然立ち上がってこの頃では記憶にないくらい機敏な動きでトイレに駆け込んでいく。2階で休んでいた母と姉を呼び、それが破水で間違いないことを確認すると、いったん休みかけていた家全体が一気に慌ただしくなってみんながそれぞれ動き出す。妻が病院に電話をすると、入院の準備をしてこれからいらっしゃいということなので、ひとまず妻はシャワーを浴びて、その間に自分らも支度を整えて、1時前に家を出発。
深夜1時30分、病院について看てもらうと相変わらず破水は少しずつ進んでいて痛みはあるものの本格的な陣痛が始まるのはもう少し後になってからだろうということなので、そのまま入院する妻を残して自分と母はいったん帰宅。翌日に備えることにする。
夜明け前、4時半頃に布団でウトウトしているところに妻から電話がかかってきて「ひとりでいるのはしんどい、いやだ」ということなので、その旨を母に伝えてひとりでもう一度病院に行くことにする。外に出たらどしゃ降りで、病院に近づくにつれて雨はどんどん激しくなって車のワイパーをマックスで動かしていても前がよく見えない。
早朝5時過ぎ、病院について病室に行ってみると妻はベッドで痛みに耐えながら横になっていて「痛くて気持ち悪くて熱くて寒くて痛くて気持ち悪くて寒くて熱い」と半べそをかいている。持ってきたタオルをかけたりはがしたり背中に手を当てたりしていると、しばらくしてから助産士がやって来て「じゃあそろそろ分娩室に移動しましょうか」と言って、痛い痛いと言っている妻を二人掛かりで両側からはさんで立たせてそろそろと分娩室に連れて行く。自分もそれについて行く。まったくそのつもりはなかったのだけれど、どうやらこれからお産がはじまるらしいことにその時点で気がついて、どうしようとか思う間もなく立ち会いに突入。その後の3時間弱は今まで一度も経験したことのないとても不思議な時間。こちらは比較的冷静だったのでだいたい覚えているけれど、叫び続けた妻はどうなのだろう。いずれにしても明け方の突然の呼び出しのおかげであの場にいられたことはとても有難いことだったと思う。
朝7時43分、出産。母親からドロンと出てきた血まみれの赤ん坊を見た医者が「お姫さんだね〜」と言うので思わず夫婦で顔を見合わせてしまう。3,194グラムの赤ん坊あるいは紫ん坊が、タオルに乗せられて母親の胸のあたりに乗っかって泣いていて、伸ばした手が母親の口元や鼻の辺りを触っていて、母親の顔も血で赤くなっていく。その時の妻が、まだまだ痛みはずいぶんあるのだろうに本当に穏やかな安心しきったような表情をしていたのでうれしかった。本当におつかれさまでした。